好きなものを雑多にレビューするブログ

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映画『リズと青い鳥』(2018/04/27)

二人の少女を繋ぎ止める、たった一つの愛のお話。

 

 

(※以下本編のネタバレを含みます ご注意ください)

 

思い立って、現在上映中の「リズと青い鳥」を鑑賞してきました。

なんだかすごく、すごく懐かしく、温かく、切なく、くすぐったい、とても良い映画でした。

 

もともと2015年と2016年にアニメ化された「響け!ユーフォニアム」シリーズの続編であり、アニメ二期に登場した二年生の二人、鎧塚みぞれと傘木希美の二人に焦点を絞った物語が今作の位置づけになります。

元々のアニメの話に関しての詳細はアニメを見てください。めっちゃ面白いので。

 

で、私アニメのこの2人のエピソードで傘木希美という女を大嫌いになっておりまして。

希美は明るく社交的、後輩からの人望も厚く周りに常に人が集まっているのですが、なんとこの女、自分が原因でみぞれが吐くほどのトラウマ持ちになったにもかかわらず、「自分が何かしたか」といったことを言い放つのです。とんでもねぇ女(CV:東山奈央)だ。

もちろん、みぞれがどれだけ辛く苦しかったかを推し量ることができるのは、アニメーションというフィルターを通して物語を俯瞰している、いわば神の視点にいる我々視聴者の特権なのですが、私は簡単に乗せられた結果顔を真っ赤にしながら「希美、絶対に許さんぞ」となっていたわけです。

ちなみにみぞれはみぞれでたまたま部活に誘ってくれた希美に人生のすべてを捧げるレベルで依存してるやべー女(CV:種崎敦美)です。とにかく重さがすごい。

 

さて、本編の話です。

 

冒頭、朝練のために学校を訪れるみぞれの姿から物語が始まるのですが、もうここからすごい。自分の足音、呼吸音、衣擦れの音、鳥のさえずり、他人の足音、希美の足音。すべての音が、みぞれの感情をうるさいくらいに表現してきます。正直ちょっとうるさいと思ったけど、ここは本当に感動した。

こういった示唆的な、抽象的な表現はギリギリ拾える塩梅だったり、こちらの感覚に解釈を任せるような表現をしてくるパターンが多いのですが、この映画は違う。おそらく絶対に外さないであろう表現で、画面と音のすべてが劇場にいる全員に「みぞれは希美に特別な感情を抱いている」ことを伝えてくる。あれは誰が見てもわかる。

 

主なストーリーの流れとしては、寓話「リズと青い鳥」になぞらえた楽曲をコンクールで演奏することに決まり希美とみぞれがフルートとオーボエの掛け合いのパートを担当することになるが、上手く呼吸が合わせられない。

リズと青い鳥」の物語の中で、独りぼっちだったリズは人間の姿をした青い鳥と共に暮らすことになるが、青い鳥の正体を知り、最後は彼女を大空へと還す。自分とリズを重ねていたみぞれは、愛する青い鳥を鳥かごから逃がすリズの気持ちが分からずに上手く演奏が出来ない。そうこうしているうちに、希美とみぞれの関係もこじれていき・・・といった感じ。

 

語りたいところは山ほどあるのだけれどいくつか抜粋して。

まず、進路希望を書けなかったみぞれが、理科室でフグに餌をやるシーン。

ここでうたた寝をしていたみぞれの瞼に光が当たり、みぞれが目を覚まします。窓の向こうには、反対側の校舎の音楽室で後輩たちと談笑する希美。みぞれが立ち上がると、希美も気づいて手を振る。そのとき、みぞれの体に光が当たっているのに気がつき、自分が手に持っているフルートの角度を動かし確かめようとするのですが、このとき、フルートの反射光が、スッとみぞれの頬から肩を撫でるように動いたとき、劇場で叫びそうになりました。こんな、こんな切ない愛情の錯覚の表現があったのかと。

その一連の動きを見てみぞれは目を伏せて小さく笑うのですが、その隙に希美は後輩たちとの談笑に戻り、窓際からいなくなります。誰もいなくなった窓際を見つめながら、みぞれは撫でられた頬に残る熱を確かめるように手で頬に触れるのですが、この時の後ろ姿にちょっと「ひぅっ」て息が漏れました。

こういった、直接的ではない何かに意味を託した表現が非常に多くちりばめられており、今作の見どころの一つとなっています。

 

もう一つ、ふたりの物語に決着がつくシーン。

終盤でみぞれが物語に登場する「リズと青い鳥」の気持ちを汲み取り、情熱的な演奏を披露し、それを聴いた希美はたまらず理科室に駆け込みます。

ここで希美が理科室に駆け込むのにも深い理由がうかがえるのですが、その後、追いかけたみぞれに対し「アタシのために手加減してたんだ」「みぞれと一緒にいれば自分が高尚な人間になれる気がした」「自分は軽蔑されるべき人間だ」などとつらつらといった挙句、足の動きのカットが入るのですが、明らかにその場を立ち去ろうとします。とんでもねぇ女(CV:東山奈央)だ。

ここでみぞれが昔流行った遊び(ハグしながら相手の好きなところを言い合う)になぞらえて、彼女を抱きとめて、どれだけ彼女が特別かを語るんですが、これがすごいの。

だって「足音が好き」「笑顔が好き」「声が好き」「髪が好き」全部、全部の言葉がどれだけ本気かを、我々はそこに至るまでのこの映画の中で、みぞれの視点でこれでもかってくらい見せつけられている。こりゃあ伝わる。で、希美がたった一言返したあの言葉に、なんだかアニメ本編を見て憤っていた自分が救われた気がしたんです。

 

みぞれは友達のいない、根暗な、何のとりえもない自分に話しかけてくれた希美こそが特別だったからこそ、互いの繋がりであるオーボエを絶対に手放さなかった。

希美は、どんな理由であれ絶対に音楽を手放さなかったみぞれだけが得た、どこへでも飛べるその翼を愛した。

形は違っていたけれど、互いをつなぐ線は一つだったことに、すごく救われた気がした。希美は相変わらずとんでもねぇ女だけど、ちゃんと自分の汚さを理解した上で、みぞれの好きなところを言えるやつなんだと思うと、なんだかとてもホッとして、涙が出ました。

 

最後、二人の道は別れたことが明確に示されます。でも、リズのもとを去った青い鳥は、またリズに会いに来ればいい。そうすれば、ハッピーエンドなんだから。

 

少し切ない、それでもさわやかな夏の夕暮れの風のような、とても素晴らしい映画でした。

とにかく五感と心をフル動員する映画なので、迷ってる方は是非、映画館での鑑賞をお勧めします。